【読書感想文】「イクメン」とか「父親」の品位を下げる言葉はもう使わない方がいい。重松清「とんび」を読んで。
冒頭から本とは関係ない話をしますが、僕は「イクメン」って言葉が大嫌い。これって「育児するメンズ」の略語ですよね。
いやいや!「父親」でいいだろ!
父親がそもそも「子供を育てる男親」って意味なんだから「イクメン」なんて言葉は不必要!「イクメン」って言葉は軽すぎる、「父親」ってもっと重いもんです。
今回この本を読んで、改めて強く思いました。
重松清の作品は良いものが多いですが、
僕的には、最高傑作!でした。
いやー泣きましたね。この本は移動中には読まない方が良いです。
どんな小説?
昭和37年夏、瀬戸内海の小さな町の運送会社に勤めるヤスに息子アキラ誕生。家族に恵まれ幸せの絶頂にいたが、それも長くは続かず……高度経済成長に活気づく時代と町を舞台に描く、父と子の感涙の物語。(KADOKAWAオフィシャルサイトより)
このねー「ヤス」がねー、マジで良い主人公なんですよ。堅物の昭和のオッサンが、父親として葛藤している感じがもうたまらない!
ヤス!頑張れヤス!と心の声を大にして応援したくなる。
ヤスの名台詞から学ぶ「父親」
今回は、ヤスの言葉をピックアップしていきたいと思います。ヤスは不器用だけど何とか子供と会話したいと思ってるし、真っすぐな性格だから良い事たくさん言います。
例えば、どんどん成長していく息子を見て寂しく思ったヤスは…
「流しそうめんみたいなもんじゃ」(本文より)
とヤス流にたとえます。ヤスが言うには…
「竹の樋を伝うて流れてくるじゃろ、そうめんが。早う箸ですくわにゃにけん,すくわんと流れてしまう……そげん思えば思うほど、箸を伸ばせんようになってしもうて、あっ、あっ、あっ、いううちに流れてしまうんじゃ」(本文より)
なるほどな〜って感じですよね。子供の成長の早さに戸惑って、どうしたらいいか整理のつかないヤスの気持ちがよく伝わってきます。
まだまだあります。
「責任より愛のほうが大事じゃ」(本文より)
息子のアキラが中学2年生の時の話。野球部のしきたりだからと後輩のお尻をバットで殴ります。その夜、後輩の父親がヤスの家へやってきて「親の責任」を問われた時に言ったセリフがこれ。「俺はいつだってアキラの味方」だときっぱりです。
もちろんヤスは息子を甘やかしているという事ではなく、このシーンの前にはアキラをぶん殴ってますし、後輩の父親に謝らせています。しかし最後は子供の味方になっている。もちろんアキラが悪いのですが…。父親とはこうあるべきではないでしょうか。
一番印象深かったのは終盤のセリフ。
「親が子どもにしてやらんといけんことはたった一つしかありゃせんのよ」(中略)
「子どもに寂しい思いをさせるな」(本文より)
結婚して子どもが出来たアキラに言ったセリフです。
アキラが幼い時に母親は亡くなっています。ヤスは男手一つでアキラを育てたんですが、母親の居ないアキラが寂しい思いをしているのではと悩み続けてきました。悩み抜いたヤスだから言えた、伝えたかった言葉のはずです。
育児書読むぐらいなら「とんび」を読め!
不器用で荒っぽいヤスですから間違いもたくさんしてしまいます。しかし一貫してヤスはアキラを愛し続けています。
子どもを愛する「父親」の理想型の1つがヤスであり、「とんび」を読めば子どもをないがしろにする父親には恥ずかしくてなれないでしょう。